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Nginx 499ステータスコードの原因、再現方法と対策

バグやパフォーマンス調査などでNginxのアクセスログを分析していると、499というステータスコードが記録されているのを見たことはないでしょうか。

このコードは「クライアント側が接続を切った」という状態を表しますが、その原因を正しく理解しないと、ウェブサイトやアプリが抱える潜在的な問題を放置することになってしまいます。

本記事では、複数のITスタートアップでCTOを務めてきた管理人が、499の主な発生原因と再現方法、原因ごとの対策を解説します。また、Nginxログに処理時間を記録し、数値からボトルネックを特定する方法も紹介します。

目次

  • NginxのHTTP 499ステータスコードとは
  • 主な発生原因
  • 再現方法
  • 原因別の対策
  • Nginxログへの処理時間の記録方法
  • まとめ

NginxのHTTP 499ステータスコードとは

Nginxにおける 499 Client Closed Request は、標準的なHTTPステータスコードではなく、Nginxが独自に定義したコードです。サーバーがレスポンスを返そうとしている最中に、クライアント側から接続を切断された(TCP FINを受信した)ことを記録するために使われます。

499が使われる理由

もしNginxが499を使わずに標準的なコード(200や500)で記録しようとすると、サーバー側の処理が正常に完了したのか、それともエラーだったのかが判別できなくなります。「サーバーはまだ処理を続けたかったが、相手がいなくなった」という状況をログ上で明確にするために、このコードが用意されています。

注意点) サーバーがクライアントに「499」というレスポンスを送信しているわけではありません。クライアントは既に通信を切断しているため、Nginxが自身のログに「このリクエストは499(クライアントによる切断)で終わった」と内部的に記録するだけのものです。

主な発生原因

499は「通信の不安定」だけでなく「待ちきれずに再送」といったUX上の問題でも発生します。

1. タイムアウト設定による切断

最も多い原因です。クライアント(ブラウザ、スマホアプリ、または上流のロードバランサー)が、Nginxからの返信を待つ上限時間を超えたため、自ら通信を終了した場合です。

  • : アプリ側のタイムアウトが10秒に設定されているが、サーバー側の処理に15秒かかっている。
  • 注意: Nginx自体のタイムアウト設定(proxy_read_timeoutなど)に達した場合は、Nginxが自ら接続を切るため 504 Gateway Timeout になります。499が出るなら、それは「Nginxより手前」で切断が起きている証拠です。

2. ユーザーによる手動操作

  • 1: ページの読み込みが遅いため、ユーザーが「更新(F5)」ボタンや「中止(×)」ボタンを押した。
  • 2: ユーザーがフォーム送信ボタンやリンクを重複クリックした。 
  • 前のリクエストがキャンセルされ、新しいリクエストが走るため、ログには古いリクエストに対して499が記録され、直後に2回目のリクエスト(200など)が並ぶことになります。

3. 通信環境の不安定さ

  • : モバイル通信の電波が悪くなり、TCPコネクションが意図せず切れてしまった。
  • ユーザーエージェントを確認し、特定のキャリアやモバイルデバイスに偏っている場合はこの可能性があります。

4. クライアント側の再送ロジック

  • ログ上には、1回目の499の直後に2回目のリクエスト(200など)が並ぶことになります。
  • : HTTPクライアントライブラリが「一定時間内に返信が来ないなら接続を一度切り、即座に再試行する」という挙動をしているケース。

再現方法

499を再現するには、サーバーがレスポンスを返す前にクライアント側で接続を切る環境を作ります。

まず、サーバー側アプリケーション(Ruby, Python, PHP等)に意図的な遅延を入れます。

# Rubyの例: 30秒間スリープ(テストするタイムアウト値に合わせて調整)
sleep 30

原因別の再現テスト

  • タイムアウトによる切断: ブラウザのネットワーク設定や、curl--max-time オプションで、sleep よりも短い時間を設定して実行します。
  • 手動操作: ページ読み込み中にブラウザの「×(中止)」ボタンを連打します。
  • ネットワーク切断: リクエスト送信直後にWi-Fiをオフにします。

原因別の対策

1. タイムアウト設定による切断への対策

クライアント側の待ち時間(Timeout)設定が、サーバーの処理時間より短いのが原因の場合、取るべき対策は以下の通りです。

  • サーバー側の高速化: DBクエリの最適化やキャッシュの導入。
  • 非同期処理への移行: 重い処理は即座に「受付完了」を返し、バックグラウンド(Sidekiq, Celery等)で実行する。
  • タイムアウト値の調整: ロードバランサーのアイドルタイムアウトや、アプリ側のタイムアウト値を、サーバーの実情に合わせて妥当な長さに伸ばす。

2. ユーザーによる手動操作・UX改善

  • UX改善: 読み込み中にスケルトンスクリーンやプログレスバーを表示し、ユーザーの不安を解消して離脱を防ぐ。
  • 二重送信の防止(フロントエンド): 送信ボタンを一度押したら非活性(Disabled)にする。
  • proxy_ignore_client_abort の検討: Nginxの設定で proxy_ignore_client_abort on; を設定すると、クライアントが切断してもバックエンド処理を最後まで完結させられます。ただし、副作用としてサーバーリソースを消費し続けるため、慎重な判断が必要です。

通信環境・リクエスト再送への対策

  • リトライメカニズム: 指数バックオフ(Exponential Backoff)を用いた再試行を実装し、一時的な瞬断によるエラーを防ぐ。
  • 冪等性(べきとうせい)の確保: 重複リクエストが来ても「二重決済」や「二重登録」が起きないよう、サーバー側でトークン等を用いた制御を行う。

Nginxログへの処理時間の記録方法

499の原因が「遅いから切られた」のか「単なる瞬断か」を判断するには、処理時間の可視化が不可欠です。

1. ログに追加すべき変数

log_format に以下の変数を追加しましょう。

変数名意味499調査での役割
$request_timeNginxがリクエストを受け取ってからログを書くまでの全時間クライアントが何秒で諦めたかがわかります。
$upstream_response_timeバックエンド(PHP/Python/Node.js等)からの応答待ち時間サーバー内の処理が遅かったのかがわかります。
$upstream_statusバックエンドが返したステータスコード499の時、バックエンドが処理中だったか、エラーだったかが見えます。

2. 設定例

/etc/nginx/nginx.conf 等の http ブロックに設定します。

# Nginx
log_format timed_combined '$remote_addr - $remote_user [$time_local] '
                          '"$request" $status $body_bytes_sent '
                          '"$http_referer" "$http_user_agent" '
                          'rt=$request_time urt="$upstream_response_time" us="$upstream_status"';

access_log /var/log/nginx/access.log timed_combined;

3. ログの分析例

設定後、ログに以下のように記録された場合: "GET /api/data HTTP/1.1" 499 0 "-" "Mozilla..." rt=60.001 urt="60.001" us="-"

rt がちょうど60秒であることから、上流のロードバランサー(ALBなど)のタイムアウト設定が60秒であり、そこで強制切断されている可能性が極めて高いと判断できます。

まとめ

Nginxの499は、「サーバーに問題がある(遅い)」場合と「クライアント側の環境やUXに問題がある」場合のどちらも考えられるステータスコードです。

  1. まずはログに $request_time を出す。
  2. 499が発生した時の秒数に「キリの良い数字(30, 60など)」がないか探す。
  3. キリの良い数字があればタイムアウト設定を、なければUXや通信環境を疑う。

この手順で調査を進めるのが、解決への最短ルートです。